JAZZの王様

渋がってんじゃねーよ

入門書を買ってみた

ミュージシャンとの出会いは、すなわち人との出会いであります。だからJAZZにしたって、音楽との出会いの方法はただ一つ、「ジャケ買い」しかありません。音楽の作り手が聴き手に対して提示している接点は、物理的にはレコードジャケットしかないからです。「ジャケ買い」と言うとなにか行き当たりばったりのイレギュラーな買い方みたいですけど、人間との出会いってそういうもんじゃないですか。

ライブがあるだろうって言っても、本場のミュージシャンが日常の延長として演奏している場は日本にはない。ラジオから流れてきた音を捕まえようとしたって、油井正一の「アスペクト・イン・ジャズ」が終わってからはまともなジャズ番組もないし、やっぱりジャケ買いしかないわけです。レコード屋のエサ箱に指を突っ込んで一枚一枚めくっていくか、壁に飾ってあるジャケットに目を留めるかして、嗅覚だけで相手を見つけて、そこから芋づる式に手を伸ばしていくっていう、ただその繰り返しですね。

ジャズ喫茶? それって輸入盤がべらぼうに高かった時代の話でしょ。とか言いながらむかし吉祥寺のMEGに通ってたりしましたけど、それはデカイ音で聴きたいのと雰囲気を楽しみたいからっていうだけで、べつに未知の音楽に出会うためではないです。寺島靖国さんにも一回も出くわしたことなかったし。リクエストカードにジョージ・ウォーリントンの "The Prestidigitator" って書いてレコード係のおねえさんに渡したら、顔色ひとつ変えずに一発で棚から引っこ抜いてきたので、リクエストももういいやって感じでしたし。

だいたい「何を聴いたらいいですか」とか言って自分の快楽を人任せにしてみたり、「間違った選択はしたくない」とか言って趣味に経済効率を持ち込んで、名盤ガイドにチェックマークとか付けてくやつの神経がわからない。それに「入門書」っていうのは本として著者の文章を面白がるもんであって、入門書のオススメ盤を順番に潰していくようなタイプは、他のジャンルではどうだか知らんが、JAZZにはたぶん向いてない。名盤カタログに頼るのは、結婚相談所で理想の相手を探すのとおんなじであって、それを効率的でいいと言うのならそうすればいいっていう、人生観っていうか、それこそ趣味の問題ですね。私にはわかりません。

それにしても最近の「入門書」はどうなってんのかと思って、こないだもちょっと書いた「いーぐる」の後藤雅洋氏の『厳選500 ジャズ喫茶の名盤』と『一生モノのジャズ名盤500』を買ってみた。

厳選500 ジャズ喫茶の名盤 (小学館新書)

厳選500 ジャズ喫茶の名盤 (小学館新書)

 
一生モノのジャズ名盤500 (小学館101新書)

一生モノのジャズ名盤500 (小学館101新書)

 

なんで後藤さんばっかり2冊なのかって言うと、昔から後藤さんの本が一番つまらなかったからです。後藤さんより上の世代のジャズ本に比べると、圧倒的に文章がつまんなかった。本をただの情報源としてしか考えない人はいいんだろうけど、本なんて、読んで面白くてなんぼです。だから、ツッコミどころ満載だろうと思って買った。ジャズファンとして後藤さんは先輩だが、こっちはちゃんと本を買った読者としてダメ出しをしてみたかった。

まず『ジャズ喫茶の名盤』のほうからひととおり読んだ。相変わらずブラックミュージックのほうに興味が広がってないなって感じはしたけど、そっちは入門書ではなく「本音」の選択がなされてるらしいので、こちらの関知するところではありません。ターゲットにしようと思ってたのは『一生モノ』のほうで、こっちはいちおう入門者向けらしいので、どんなつまらない名盤にどんなつまんないコメントが書いてあんのかと思ってワクワクしてました。

けっこう驚いた。文章は相変わらずな感じでも、本気でレコードを選んでるなって思った。「初心者」向けの手前勝手なソンタクがない。後藤さんが書くもののいいところは、昔から本にしても雑誌記事にしても正直なところです。好き嫌いを超えろとか言いながら平気で偏向してるところはあるにしても、よくわかんないところはわかんないってことがわかるように書く。そういう点では信用できる。戦前のジャズはあんまり聴かないとか言われると、おいおいそれでジャズ評論とかできんのかとか思いますが。ジャズ喫茶半世紀って、「(自分が考える)ジャズ以外の音楽を聴いてこなかった半世紀」でもあるわけです。

でもとにかく『一生モノのジャズ名盤500』には、昔だったら入門者にはまず勧めなかったような、ジャケ買いを繰り返して辿り着くようなレコードがバンバン出てくるし、真面目にいいものを紹介しようとしてることは伝わってきた。レコードガイドとして意外にも面白かった。自分の人生をガイドブックなんかに託す連中にも、どうせなら本気でいいと思うものを教えようってことらしく、やっぱり誠実な人ではあります。

ときどきとんでもない爆弾発言っていうか、まるでシロートみたいな意見を混ぜてみせるのも後藤さんの特徴だけど、真面目で遊びがない文章であるだけに、そういうときはインパクトがものすごくて聞き流せない。『一生モノ』に出てきた問題発言については次回にまわします。