JAZZの王様

下品の意味を知る

あなたに任せて30年 - John Wright

やっぱりJAZZみたいに極めて肉体的な音楽を、ピアノみたいによそよそしい楽器で表現するのは非常にむずかしいわけですよ。ギターもそうかもしれませんけど。だから昔からピアノトリオが苦手です。なんか薄っぺらくて聴いてられない。

本当に好きで夢中になって聴いたのは、ハンプトン・ホーズホレス・シルバーバド・パウエルジョージ・ウォーリントン(音数がめっちゃ多かったときもめっちゃ少なくなってからも両方)、リチャード・ツワージク、それから "You Must Believe In Spring" や "We Will Meet Again" なんかの晩年のビル・エバンスと、キース・ジャレットのスタンダーズぐらいです。他に誰かいたっけ。いたような気もするけどもういいや。ああ、ペトルチアーニか。いいね。エディ・コスタもいいけど、なんかいつも怒られてるみたいでちょっと疲れる。チック・コリアは「ナウ・ヒー・シングス...」がいいけど、あれは半分はロイ・ヘインズの功績だかんね。ピーターソンは上手さが人間離れしてて面白いけど、むしろ伴奏に回ったときとか、スタン・ゲッツとやった狂乱の宴とか、トリオはトリオでもギターのハーブ・エリスとやってたトリオのほうがいい。

人生も残り少ないし、ピアノトリオなんかには見切りをつけて、これさえ聴いてればいいやっていう、基準になるレコードを決めたい*1。と言ってもそれはとっくに決まってて、John Wrightの "South Side Soul" しかないじゃないですか。

 

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John Wright - Piano
Wendell Roberts - Bass
Walter McCants - Drums
(August 30, 1960)

 

ジョン・ライトなんて知らなかったですよ。最初はジャケ買いです。輸入盤屋のエサ箱に指を突っ込んでぺこぺこやってたら釣れた。「この顔見たら110番」じゃないけど、雰囲気勝負で中身ボロボロのD級盤のニオイがするじゃないですか。なんかそこらへんの申し訳なさが顔に出てる。メンバー誰ひとり知らないし。そういうの大好きなんで、迷わず買いました。

持って帰って聴いてみたら、怒髪天を衝く、じゃないや、脳天にカミナリでしたわ。

いきなり、ねっとりと絡みついてくる音の粘り気に殺されます。なんか「海より深く反省!」じゃないけど、その反省の仕方が普通じゃない。暗くて深い、地べたを這う真夜中のブルースです。一聴おんなじようなブルース演奏はピアノトリオの世界にいくらでもあって、似たようなフレーズを似たようなテンポで演奏している例は間違いなくあるはずなんですが、どうしても途中で聴くのをやめることができない。これは大変なものに出会ってしまったと思いました。

でもよく聴いていくと、音やタイムのとりかた自体が重たいわけではないことがわかってきた。引きずるような弾き方をしてるわけでもない。ノリは滑らかだし、自己憐憫にひたってるのとは真逆な、醒めた感覚や明るさもある。ただとにかく、聴いてて気持ちいいんですね。「そこにその音を置いてほしい」というこちらの無意識の願いが、一瞬一瞬、ジャストな音色と音量とタイミングで実現していく。そんな快感を与えてくれる演奏家がどれだけいるでしょうか。とんでもないワザ師であることがわかりました。

ジョン・ライトはワザ師なんだと思います。何か強烈な想いがあるとか、ソウルが深いとか言うよりも、本当の意味でピアノがものすごく上手い。どこらへんのツボを押さえればソウルでブルージーな感動をリスナーに与えることができるか、そのボキャブラリー、フレーズのストックが溢れるほどある。その豊富な語り口を、ことさら煽るでもなく、繰り返すでもなく、これしかないという最適な順序で整然と並べてみせる。それができるだけの余裕と見識があるわけです。"35th Street Blues" という7分に及ぶスローな曲なんかでも、特別ドラマチックな展開をするわけでもないのに、まったく最後までダレることがない。JAZZという極めて肉体的な音楽をピアノみたいによそよそしい楽器で表現するという、そのむずかしいことを、確実にやり遂げてます。恐ろしいピアニストです。

  • ソウルな "くすぐり" としてのフレーズ、ボキャブラリーが多い
  • それらのネタを最適な順序とタイミング、ボリュームで整然と並べてみせる
  • ソロの構成に破綻がない

これって誰かに似てると思ったら、ウィントン・マルサリスですわ。ジョン・ライトはピアノのウィントン・マルサリスであったと。あながち外れてもいない気がします。やりたいことは、自分が思うとおりに何でもできる。じゃあオスカー・ピーターソンみたいかと言うとそれはぜんぜん違っていて、ピーターソンはピアノという楽器をどこまで駆使できるかっていう発想、ピアニズムが先にあるけど、ジョン・ライトはただやりたいようにブルースをやるためだけに修練を重ねたっていう感じですね。

"South Side Soul" というLPは、7曲全部がジョン・ライトのオリジナルであって、初リーダーアルバムとして尋常ではない力のこもりかたです。冒頭の "South Side Soul" の他にも "47th And Calumet" とか "63rd And Cottage Grove" とか、いちいち地元のシカゴに関係した曲名になっているらしいです。よく知りませんが。

「ブルージーなピアノトリオ」ってやつの一つの基準として、いつまでも聴けるレコードだと思いますね。ベースもタイトでドライブ感があるし、ドラムなんかは、ピアノをまったく邪魔してないのにドラムだけ聴いても楽しめるっていう、理想的な仕事をしてます。

 

*1:ギターもビル・ジェニングスとかレス・スパンとかサル・サルバドールとかジョニー・スミスとか好きだけど、結局ジョージ・ベンソン聴いとけば応急処置は可能です。なんか困ったときはベンソンに頼ります。欲しいものがあるんだけど探すのが面倒なときは、とりあえずそこにあるベンソンで代用できます。ちょっとした切り傷ややけどにはオロナイン軟膏です。ジャズ界に誰も人がいなくなっても、ベンソンがいれば、ジャンルとして存続できます。ベンソンこそが王様だからです。なんとかバレルだの、なんたらファーローだの、ベンソンの前では赤子も同然、バカの一つ覚えみたいにウェスウェス言ってないで、ベンソンを聴け!

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