JAZZの王様

渋がってんじゃねーよ

最近ソーセキ読んでますか

ジャズの「入門書」に不愉快なものが多いのは、あからさまに読者を見下して、本音を隠して手加減した物言いをしながら、その手加減が的外れだからです。入門者というのは「口当たりがいいもの」や「できるだけ抵抗がないもの」を求めているのだと頭っから決めてかかっている。そういうベビーフードを欲しがる依存心の強い人間もいるのかもしれないが、これだけいろいろ音楽があって、それでもジャズなんかにアプローチしてくるのは、何か根本的に違った新しい音楽体験が欲しいからじゃないんでしょうか。

だから入門書の1枚目にコルトレーンヴィレッジ・ヴァンガードを持ってきたって、ドルフィーの "Out to Lunch" を聴かせたって、モンクの "In Action" を強力に勧めたって、書いてる本人が本気でいいと思ってて、文章に熱があれば一つの有益な情報として伝わるし、あとは読者のほうがいろいろ読んで判断すればいい。だって、「これは初心者には無理だろう」って勝手に思い込んでるアルバムの中にこそ、初めてジャズに触れる人間に強力にアピールする音が詰まってるかもしれないじゃないですか。

だいたい自分たちだって、最初に "驚き" があったからジャズにのめり込んだはずなのに、そういう機会を読者から奪おうとする意図がわかりません。自分たちはたまたま音楽的な感性が優れてたから驚きにも耐えられたけど、フツーの人間だったら逃げ出しちゃうから、そこはソフトランディングさせなきゃとか絶対思ってる。しかしそうやって読者を赤ん坊扱いした手前勝手な「おもてなし」は書いてる側の自己満足であって、あんなにもてなしたのになんでウチの旅館には人が来ないんだろうみたいな話になります。

そしてさらに罪作りなのは、そうやって手加減した結果、ジャズ入門っていうと決まってエバンスの「ワルツ・フォー・デビー」とかオスカー・ピーターソンの「We Get Requests」とか勧めてくることです。勧めるほうは「まずはなじみやすいピアノトリオから」とか言いながら、「口当たりがいいもの」「抵抗がないもの」「理屈抜きで楽しめるもの」を紹介してるつもりなのかもしれないが、もし本当にたとえば "We Get Requests" がただの聞きやすい軽い作品だと思ってるなら、その著者は耳がどうかしてるし、本当に価値がある作品だと思ってるなら、説明があまりにも足りない。その結果、入門書の初っぱなで「定番」をおざなりに紹介された読者の意識には、それらのアルバムが「初心者向け」であると刻印されてしまう。易しいだけで深みがなく、鑑賞力がついたらもう顧みる価値がない作品だという区分けに入れられる。ていうか、私の場合がそうでした。

そうやって、大人になってからまともに漱石や芥川を読み返したことがありますか、いいえありませんみたいな扱いになってしまうのです。あの "We Get Requests" が!! だってこれ、ピーターソンの中でも特異な、強烈な作品じゃないですか。こんな恐ろしいピアノは、弾こうと思ったって弾けるものではありません。

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ピーターソンみたいに、やろうと思えば何でも弾けちゃう人の場合は、何を弾いたかではなくて、何を弾いてないか、何をやってないのかを聴かなかればなりません。右のほうの高い音ばっかりで、左側の鍵盤叩いてないぞとか、さっきからすげぇちっちゃい音しか出てないけどとか、ピーターソンの場合はそういうのに全部意味があります。